場をデザインし、
文化を紡ぐ。
建築とまちづくりで、
大宮に新たな価値を。

本記事は20周年企画の一環として、大宮地域で活躍するさまざまな方々に、あらためて大宮という街の魅力や目指したい未来についてお聞きするインタビューシリーズです。取材を受けられた人に、次の人をご紹介いただくというルールのもと、プレイヤーからプレイヤーへとバトンをつないでいきます。

15人目は、建築家の伊藤孝仁さん。大宮にある設計事務所「AMP/PAM(アンパン)」を主宰し、建築設計はもちろん、街や都市に新しい風景やつながりを生み出しています。そんな伊藤さんに、大宮での活動やその魅力、そして昨年末に手がけた「氷川神社 ゆうすいてらす」について伺いました。

お話しを聞いた人

お名前

伊藤孝仁さん

建築家。1987年東京生まれ。乾久美子建築設計事務所を経て2014年から2020年までトミトアーキテクチャ共同主宰。2020 年より AMP/PAM(アンパン)主宰。大宮を拠点に北関東・南東北エリアでの地域拠点づくりに関わる。主なプロジェクトに『氷川神社ゆうすいてらす(2024年竣工)』、『群馬総社駅前広場(2025年基本設計)』がある。「社会的資源の営繕」をテーマに、道具から都市まで、ストリートからランドスケープまで、領域を横断しながら建築設計に取り組んでいる。アーバンデザインセンター大宮[UDCO] デザインコーディネーター。東京理科大学・前橋工科大学・明治大学 非常勤講師。

公共空間の「時間の隙間」に入り込み、大宮のカルチャーを育む

東京都ご出身の伊藤さんが、大宮を活動拠点にするまでの経緯を教えてください。

幼い頃の話になりますが、小学校のときに転校した先の学校が、教室が一つひとつ独立した家のような設計で、教室を出ると開放的な空間が広がっていたんです。そのユニークな構造に驚き、それが建築やランドスケープに興味を持つきっかけになりました。大学で本格的に建築を学び、卒業後は設計事務所に就職。その後、横浜で建築やリノベーションに携わり、友人とともに設計事務所「トミトアーキテクチャ」を立ち上げました。独立を考えていたタイミングで、UDCO(アーバンデザインセンター大宮)と出会い、デザインコーディネーターとして活動を始めました。大宮との関わりはそこからですね。

大宮にはどんなイメージをお持ちですか?

埼玉は横浜に比べて平坦で郊外的な住宅地のイメージがあったんですが、大宮を深く知るうちに、縄文時代からの暮らしの痕跡があったり、氷川神社などの歴史的な要素や、バスで20分ほど行けば広がる見沼の豊かな自然に驚きました。一方で、駅前周辺は大小の商業施設が建ち並び、賑わいを見せていて。駅も想像以上に大きく、東北での仕事が多い自分にとって新幹線の利用にも便利ですし、駅ナカのエキュートさんも魅力的なお店が揃っていますよね。そういった、都市の便利さと豊かな自然が共存する点に、大宮の大きなポテンシャルを感じています。

UDCOでは実際にどんな活動をされているのでしょうか。

UDCOは、大宮駅東口にある「まちラボおおみや」を拠点に、大宮のまちづくりを推進し、連携を促して相乗効果を生み出すとともに、新たな時代に向けた街のデザインとマネジメントを提案しています。例えばGCS(大宮駅グランドセントラルステーション化構想)を発端とした駅前の開発において、行政や企業、地権者、市民の間に立ち調整を行う活動だったり、住民がまちづくりに関わるきっかけとなるトークイベントなど、さまざまな「対話の場づくり」を行っています。

マチミチミーツ@おおみや[mmm] / 写真提供:アーバンデザインセンター大宮(UDCO)

また、より身近なつながりにも注目し、「ストリートテラス」と総称した取り組みも行っています。例えば、将来的に道路として整備される予定でも、完成まで長年アスファルトのまま手つかずの状態になっている場所があります。そうした公共空間に潜む「時間の隙間」に入り込み、大宮ならではの文化やローカルコンテンツを混ぜ合わせ、人が滞在できる場や風景をつくる取り組みも積極的に行っています。個人的には、大宮のカルチャーの土壌を耕している感覚ですね。

写真提供:アーバンデザインセンター大宮(UDCO)

大宮はますます便利になり、賃料の上昇により、個人が場所を構えてチャレンジすることが難しくなっていますが、そうした人たちが最初の一歩を踏み出せる場を、公共空間の中に生み出すことも大切にしています。

湧水の恵みを受け継ぐ「氷川神社 ゆうすいてらす」

伊藤さんはUDCOの活動と並行して、設計事務所「AMP/PAM(アンパン)」を主宰されています。

はい。大宮を拠点に、北関東や南東北エリアでさまざまなプロジェクトに携わっています。昨年末には、氷川神社の社務所前に完成した、休憩所とトイレを兼ね備えた多目的施設「氷川神社 ゆうすいてらす」の設計を担当しました。

「氷川神社 ゆうすいてらす」 / 撮影:Kenta Hasegawa

「氷川神社 ゆうすいてらす」 / 撮影:Kenta Hasegawa

氷川神社の起源は湧水に由来するとされていることから、“水の恵み”をテーマに設計しました。近年、氷川神社周辺でも開発が進み、地面がアスファルトで覆われる場所が増えた結果、水が地面に染み込まず、周辺の木々が弱ってしまっていることを知りました。そこで、この場所では“流れの回復”を意識し、雨水が大地に浸透する仕組みを取り入れました。水が行き渡り元気になったケヤキやクスノキが、心を整えたり直会(なおらい|緊張をほぐす)をする参拝者を優しく包み込むような、自然と人が配慮しあう新たな「大宮らしい広場」になると嬉しいです。

大宮を拠点に多くの活動をされている伊藤さんの、今後の展望を教えてください。

さらなる大宮の“カルチャーの醸成”に関わっていきたいですね。大宮って一見すると便利さが際立つ街ですが、実は魅力的なカルチャーがたくさん潜んでいる場所でもあるんです。UDCOでは、大宮の古着文化に着目したマーケット「大宮ストリートワードローブ」の定期的な開催をサポートしているのですが、その文化をマップ化したり、公共空間を活用したマーケットで可視化することで、「大宮のカルチャー」の認知が少しずつ定着していくと考えています。こうした表には見えにくい、でも確かに根付いている大宮のカルチャーを公共空間と混ぜ合わせ、さまざまな場所で浮かび上がらせることで、大宮のポテンシャルや魅力をさらに引き出せたらうれしいですね。

伊藤さん、ありがとうございました。では、次にインタビューする方のご指名をお願いします。

大宮のまちづくりや市民文化の醸成に深く関わる加藤久美子さんをご紹介します。加藤さんは「おおみやコミュニティの“わ”女性の会」の代表を務めるほか、大宮駅周辺の公共空間を活用したイベント「アートフルゆめまつり」の運営に初期から携わり、市民主体のまちの賑わいづくりに長年取り組まれています。公共空間を活用した活動の蓄積も大きく、その取り組みをぜひ掘り下げてみてください。