知覚を刺激する
一冊が暮らしを豊かに。
大宮で広がる、本と人との
“新しいつながり”

本記事は20周年企画の一環として、大宮地域で活躍するさまざまな方々に、あらためて大宮という街の魅力や目指したい未来についてお聞きするインタビューシリーズです。取材を受けられた人に、次の人をご紹介いただくというルールのもと、プレイヤーからプレイヤーへとバトンをつないでいきます。

14人目は、本屋「本と喫茶 夢中飛行」のオーナー、直井薫子さん。大宮駅東口から氷川神社へと向かう途中にあるこのお店は、直井さんの選書に加えて、1棚1オーナー制のシェア本棚など、さまざまな取り組みが展開されています。さいたま市出身の直井さんに、大宮で活動を始めた経緯や街の魅力について伺いました。

お話しを聞いた人

お名前

直井薫子さん

合同会社CHICACU 代表社員
CHICACU Design Office & Bookstore 代表 / Artist / Designer

1989年埼玉県生まれ。「本と喫茶 夢中飛行」「本と渚 夢中漂流」館長。多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業後、出版社デザイン部、株式会社中野デザイン事務所、株式会社IDEASKETCHの勤務を経て、2019年にCHICACU Design Office & Bookstore、2023年に合同会社CHICACUを設立。下町でのローカルメディア制作や自宅兼事務所の住み開き経験を生かし、まちづくり・地域コミュニティ・芸術・建築分野を中心に、企画・編集・デザイン・表現活動を行う。近年の主な仕事に「市報さいたま(2019年6月〜2024年5月)」「MORE THAN PROJECTのブローシャーやウェブのデザイン(日本タイポグラフィ年鑑2018審査委員賞受賞/VI部門)」「AG/SUM(国際サミット)」「REG/SUM」「岩槻リノベーションまちづくり」「寄居町デザインガイドライン」「100BANCH」など。デザインワークのほか、ローカルメディアとして「うらわパーティ」「秘密基地相談所」「コミュニティスペース マチノバ」の立ち上げや運営を行うなど、活動は多岐にわたる。現在は「本と喫茶 夢中飛行」「本と渚 夢中漂流」の2つのキュレーションスペースにて自身の表現活動を模索中。

好奇心を刺激し、新しい世界への入り口に

直井さんは東浦和のご出身ですが、大宮で本屋を開かれた経緯を教えてください。

幼少期から読書をするのが好きで、当時から「将来は言葉や本に関わる仕事をしたい」と考えていました。高校卒業後は都内の美大でデザインを学び、その在学中に東日本大震災が起きたんです。メディアを通じて街や故郷を失う人たちの存在を知り、それまで考えもしなかった地元への意識が芽生え、同時に「将来は自分の専門性を活かして地元のために何かしたい」と思うようになりました。

大学卒業後は、都内の出版社のエディトリアルデザイナーとして活躍されます。

その頃、葛飾区のローカルメディアの立ち上げに加わり、そこで震災で生まれた問いに対するひとつの答えを見つけたというか、面白さと可能性を感じたんです。これをきっかけに、私の専門である「本」を媒介にして、地元の人と人をつなぐメディアやコミュニティを作りたいと思うようになり、2016年に地元・さいたまへ戻ることを決めました。

2020年には北浦和にデザイン事務所兼書店「CHICACU Design Office & Bookstore」を設立。イベントの企画・運営や、『市報さいたま』のデザインなどを手掛けながら本屋も運営し、2022年には大宮に移転して「本と喫茶 夢中飛行」として再スタートを切りました。

「本と喫茶 夢中飛行」店内

夢中飛行には、直井さんの選書コーナー「CHICACU Bookstore」がありますね。

“チカクが変われば、世界も変わる”をコンセプトに、訪れる人たちの暮らしが今より少しでも豊かになるような選書を心掛けています。知覚ってセンサーみたいなものだと思うんです。それをいろいろな角度から刺激し、好奇心をくすぐることで、まだ知らなかった世界へと誘いたい。そういう願いも込めて、本を選んでいますね。

「CHICACU Bookstore」書架

他にも、1棚1オーナー制のシェア本棚や、読書会などの多彩なイベントも魅力的です。

なんというか、“私だけの書店”にはしたくないんです。私が選んだ一冊でも、シェア本棚で見つけた一冊でも、偶然開いたページで出会った一行でもいい。あるいは店員との会話やイベントで耳にした印象深い話など何でも構わないのですが、ここで時間を過ごした方が何かしらの刺激や影響を受け、それが豊かな暮らしに繋がっていればうれしいという気持ちで運営しています。

本来はお客さまであるみなさんですが、私はあえて「ここにはお客様はいない」と伝えています。集まった方々と一緒に試行錯誤しながら作り上げていく本屋だからこそ、ここでしか生まれない価値があると感じています。その過程で交わされるやり取りや表現が、関わる人それぞれの人生に良い影響を与えられたら——おこがましくも、そんな願いも抱いています。

大宮の“街の奥行き”を知ることが楽しい

直井さんにとって、大宮はどのようなイメージですか?

学生時代の大宮は“遊ぶところ”ってイメージで終わっていましたが、2016年にさいたまで活動を始めてからは、長い時間をかけて作られてきた街の歴史や文化に目が向くようになりました。氷川神社はもちろん、大宮駅周辺の長く愛され続けているお店や、長年にわたり大宮で活動されている方々など、その“街の奥行き”を知ることが今はとても楽しいですね。

エキュート大宮は今年で20周年を向かえますが、よくご利用になられますか?

20年前というと……私が15歳の時にできたんですね。エキュートさんがある風景は、もはや“当たり前”の一部として私の知る大宮に溶け込んでいます。今でもよく利用していて、特に贈答品を購入することが多いですね。ジャンルが抱負なので、「素敵なものを贈りたいな」と思うときにとても便利ですね。

最後に、今後「夢中飛行」でやっていきたいことを教えてください。

今、シェア本棚やイベントを特徴とする本屋って全国で急速に増えているんです。でも、ここは流行り廃りで終わるのではなく、この本屋を支えてくれているみなさんや、そこに広がる読み手のみなさんと一緒に“新しい本屋のかたち”を作りたいなって。「こんな風に本が広まっていいんだな」と感じられるような、今までの小売店の枠にとらわれない自由な時間を提供していけたらうれしいですね。

直井さん、ありがとうございました。では、次にインタビューする方のご指名をお願いします。

建築家の伊藤孝仁さんを紹介します。建築を通して地域や社会の変化に関わり、これまでさまざまなプロジェクトを手掛けてこられた方で、数年前、伊藤さんが主催するイベントに出店したことをきっかけに交流が始まりました。2020年に大宮を拠点とする設計事務所「AMP/PAM(アンパン)」を設立され、昨年末には氷川神社の社務所前に新しく完成した休憩施設「氷川の社 ゆうすいてらす」の建築も担当されています。ぜひ、その建築に込めた思いを聞いてみてください。