豊かな見沼田んぼの
恵みを受けた自然栽培の
野菜を、さいたまの食卓に
届けたい。
こばと農園の挑戦

本記事は20周年企画の一環として、大宮地域で活躍するさまざまな方々に、あらためて大宮という街の魅力や目指したい未来についてお聞きするインタビューシリーズです。取材を受けられた人に、次の人をご紹介いただくというルールのもと、プレイヤーからプレイヤーへとバトンをつないでいきます。

13人目は、見沼田んぼで自然栽培の農業に取り組まれている、こばと農園の田島友里子さんです。新規就農の田島さんが無農薬・無肥料の栽培に挑戦する理由とは? さいたま愛をたっぷり込めて語っていただきました。

お話しを聞いた人

お名前

田島友里子さん

三重県出身さいたま市在住。
愛知教育大学大学院(美術教育専攻)卒業後、北海道にて農業に携わる。埼玉県農業大学校(有機専攻)を経て、2016年こばと農園を設立。有機JASの認証農場として、自然栽培の野菜、オーガニックフラワーを生産。自然栽培農家グループ『さいたま有機都市計画』の代表もつとめる。

地元の土が育てた野菜を、地元の人に届けたい。

こばと農園では、無農薬・無肥料で野菜を生産していると伺って驚きました。

一般的な自然栽培農家では自然由来の肥料を使用することが多いですが、うちの場合は完全無肥料です。何もしなくても草は自然に生えますよね。それと同じで、野菜も土の力だけで十分育つんです。畑のバランスを考えて、年間30〜40種類の野菜を少量多品目で生産しています。

夫が与野の出身で、8〜9年前にさいたま市へ移住しました。私は三重県出身でまったくゆかりのない土地でしたが、来てみたら最高でしたね! 特にこばと農園のある見沼田んぼは、肥沃で力強い土壌。水に恵まれていて、川の氾濫によって有機物が積み重なった地域なんです。土が重いと嫌がる農家さんもいますが、無肥料でこれだけ立派な野菜ができるというのは、すごく幸せなことだと思います。

田島さんは、もともと農家のご出身ではないとか。

はい、農業歴は13年くらいです。肥料や農薬、種もそうですが、日本の農業はそのほとんどが輸入の上に成り立っているのが現状です。輸入によって日本の農業や食が支えられていることに、私は危機感を覚えました。もともと農業には関心がありましたが、日本の豊かな四季や水、土壌を考えれば、もっと自立した農業ができるんじゃないかと思い、自然栽培への挑戦を始めました。

流通も地産地消を意識していて、採れた野菜は基本的にさいたま市内で売っています。スーパーには日本中、世界中の食材が並んでいますが、もっとシンプルに、「人が地のものを食べる」という、人間として当たり前のことに立ち返りたいなと思って。さいたまで野菜を作り、さいたまで食べるというサイクルを大事にしています。

農業と都市が共存する「有機都市・さいたま」には全部ある!

代表をつとめられている「さいたま有機都市計画」は、どのような活動をしているんですか?

さいたま有機都市計画は、新規就農で自然栽培農業をしている人たちの集まりです。新規就農で自然栽培農業をやろうとすると、何かと一人で頑張らないといけないことが多いんです。理念はみんなそれぞれ違っても、相談したり情報交換したりできる仲間の存在は心強いですね。自然栽培農業に関心のある市民の方も参加していて、イベントの手伝いなどをしてもらっています。

市民の皆さんに自然栽培農業を知ってもらうためのイベント、「さいたまOrganic City Fes」も私たちの活動の一つです。昨年は、私たちが提携しているさいたま市周辺の飲食店と協力して「フェス飯」企画を実施しました。市民の食と自然栽培農業が接続することで、「有機都市・さいたま市」という新しい豊かさのモデルケースになればいいなと考えています。

田島さんは、この街にはどんなイメージをお持ちですか?

私にとってさいたま市は、家族みんながやりたいことを実現できる場所ですね。私は農業をやりたかったんですが、夫は公務員で東京勤め、子どもたちは学校に通わなくてはならない。そうなったとき、さいたま市はすべてがちょうど良かったんです。

文化も歴史もある街で、農業もできるし、都会にも住めるし、そのグラデーションも選べる。気の合う人ともすぐ会えるし、三重に帰省するにも、エキュート大宮でお土産を買って新幹線に乗ればあっという間です。市民の皆さんは「何もない」と言いますが、私にしてみれば「全部ある」。住んでみると何ひとつ不便がないんですよ。だから意識的に言うようにしています、「さいたま最高!」って。

田島さん、ありがとうございました。では、次にインタビューする方のご指名をお願いします。

「本と喫茶 夢中飛行」の直井薫子さんにおつなぎします。彼女とはずいぶん長い付き合いになりますね。美大出身で、私も大学で美術を専攻していたので意気投合しました。独特の感性を持った素敵な女性だと思います。

彼女は本の分野で地域に根ざした活動をされていて、一緒にマルシェを開くこともあります。出身も業界も違いますが同じフリーランスですし、同世代なので、彼女ががんばっている姿にはとても刺激を受けているんです。